暴走書家

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『運命めを奏でる調べ-1-』

 知り合いがバーを開いて、数ヶ月がたった。瀬田(せた)浩志(ひろし)は、浩志自身も夜の職業に今のところまだ就いている事もあって、中々顔を出す事は出来ないし、顔を出したとしても、仕事以外で殆どアルコールを口にしようとは思っていなかったので、バーに来ても、一杯をゆっくりと飲んで、まだ時間があれば、ノンアルコールのものにしてもらっている。仕事で飲んでいて、それ以上飲む気にはなれない。それでも、一杯だけでも、と思えるのは、このバーだからだろう。浩志の知り合い、知り合ったのは、浩志の勤め先でだった。一緒に働いていた期間は短かった。浩志がそのホスト・クラブ『ムーンライト』に入った時、彼、宮下雫はそこのNo.2のホストだった。雫は、学業との両立の中、浩志が入った半年後に、卒業と共に辞めていった。

 浩志は職場では知られていないが、流石に、客の耳までその話が届く事はなかったが、雫がゲイである、という噂は、『ムーンライト』のホスト内でも、有名な話だった。その噂の出所は知らないし、真実かどうかもわからなかったが、ホスト内でも、やはり、上下関係がある中で、入ったばかりの浩志と、No.2である雫の間にはかなり差があると思うのだが、雫は話し掛けやすかった。真面目に聞きたかったが、それは怖くて出来ず、心の中では真剣だったが、表面的には冗談交じりに雫に尋ねてみた事がある。冗談交じりに、それもやはり、相手が雫だったからだろう。

 ゲイであるというのが、あまり大きく噂になっては、困らないのか、と。この時、まだ浩志は、雫に対して、自分もゲイである事をカミングアウトしてはいなかった。それに対して、雫が答えたのは、雫がゲイなのは真実だから、否定しようがないし、仮に真実でなくとも、下手に否定すれば、余計に噂は悪い方向に大きくなる、ただ単にそういう噂がある分には、害はないし、ホストもそう長くは続けるつもりはないから、そう言っていた。浩志が雫に自らもゲイである事を話したのは、その後の事だ。

 その当時、まあ、今もなのだが、浩志に特定の恋人はいなかった。浩志は、それに憧れながらも、どこかで半ば諦めてもいた。どういった心境でかわからないが、男に飢えている、というより、現実の男では満足出来ずに、ホストクラブに通う女性たち。そんな女性客と、それに接する浩志自身から、現実に本当に誰かを好きでい続ける事が出来るのか、自信がなかった。それでも、そんな事ばかり思って、臆病で何も行動出来ない人間ではいたくなかったので、ほんの数人だけど、付き合ってみたりしたけれど、中々、一緒にいる時間が作れなくて、それだけが理由ではないと思うのだが、別れてしまった。別れる事がある可能性、それもわかってはいるつもりだ。しかしたまに、浩志が過大に憧れがありすぎるのではないかと思う時もある。

「運命的な出会い、ってあると思いますか?」
「さあ。何をもって運命的、というかはわからないけど、偶然にせよ必然にせよ、どれだけ努力しても、運に任せるしかない時は多いんじゃないかな? 実力も才能も運の内。そうしたら、大体の事が、運命なんじゃないのかな」
「雫さんは、そういうのって感じるんですか?」
「そうだね……。もう別れたけど、彼との出会いは、運命だと思ってるよ。あまり、その言葉に拘るのは、僕は好きではないけどね、そう思う」
「何となくわかる部分もあるような気もしますし、俺が感じている事と違うことがあるような気もします」
「そんなものでしょう。僕が勝手に、そう思っているだけで、その相手の方が、そう思っていたかどうかも定かではないし、ただ、僕の今の考えだから。浩志には浩志の考え方があるだろうし、それでいいんじゃないの?」
「もし、よくない、といわれても、どうする事も出来ないですけど」
「何がどうよくないのかにもよるけどね。どうする事が出来ない事は、本当に、どうする事も出来ないからね」
「諦めるしかないんですかね。やっぱりそういう事は」
「諦める……ねぇ。何となく、聞こえがよくないけど、まあ、どんな言葉を使おうと、現実に起こしている行動に変わりはないよ」
「雫さんは、その恋人と別れて、今はいないんですか?」
「うーん。出会いは出会いでそれなりにあるんだけど、付き合うか、ってなると中々、そこまでいかないね」
「そういう風に好きにはなれない?」
「それもあるし、僕が好きになっても、相手がなってくれなければ駄目だし、逆でも、ね」
「まあ、そうですよね」
「ま、一生そういう相手と出会えないかもしれないけど、そうじゃなきゃいけない訳でもないし、そういった可能性は、零でも百でもないからね。例え相手が出来ても、僕は僕の人生しか生きられないし、浩志は浩志の人生しか生きられないでしょ」
「それはそうですね。どんなに好きな相手と両想いになれて、一緒にいられたとしても」
「そうそう」

 それから、雫が辞めるまでの間、会話を交わしたし、辞めた後も、完全に連絡が途切れたわけではなかった。雫がバーを開いた時も、連絡があったし、その後は、バーに行っても、雫と顔を会わせる事は、滅多になかったし、そこで恋人が出来たか、というとそれもないけれど、恋人ではないけれど、新しい出会いはあった。浩志も浩志で、少しずつ変わっているのもあったし、時代、文化の流れの中で、出会いも多様になってきている。そして、恋人云々もあるけれど、浩志はこの先の事、どれだけ考え、それが実を結ぶ事かわからないけれど、今、手に仕掛けたきっかけを一つの区切りに、少し考えていた。


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『幹分かつ枝-8-』

 俺は何をやってるんだ?
 政司が……政司も、ずっと俺と同じだったのか?
 想いを吹っ切る為に、政司の部屋を訪れ、話を持ちかけた筈なのに、思わぬ事態になってしまっていた。
 政司に望まれて、拒める筈もなかった。
 ずっと、想いを押し込めてきて、叶う筈がないから、と。

 長年、胸に秘めてきた欲望が、一旦、溢れ出したら、止める事が出来なかった。
 政司に欲されて、抱かれ、政司を欲して、そのカラダを抱いた。
 その時は、ただ、それだけだった。
 それ以外、何も考えられなかった。

 兄弟である事すら忘れていた。
 呼びなれたその名前も、聞きなれたその声も、いつもとは違っていて。
 セックスの間中、多分、お互いの世界には、相手の姿しか映っておらず、二人で、その行為に溺れていた。
 その世界には、俺と政司、二人しかいなかった。

 けれど、行為を終えて、一息ついてみれば、俺は、自分の愚かしさに愕然とした。
 何故、俺は、俺には直哉が、恋人がいると、言えなかった?
 直哉と、きちんと向かい合う為に、そして、政司とは、兄弟として向かい合う為に、打ち明けたつもりだったのに。

 直哉が持たせてくれた勇気。
 直哉が優しく押してくれた俺の背中。
 それを、俺は……。

 直哉が、俺の事を受け止めてくれて、愛してくれて、だから、俺も、直哉の事を愛していた筈なのに。
 何故、こうも、俺は簡単に、崩れてしまったのだろう。
 その欲望に。

 あの日、あの温泉旅館で、直哉と話した事。
 俺の想いと、直哉の過去。
 それを、こんなカタチで裏切る事になろうとは。

 結局俺は、直哉の好意に甘え、その優しさに包まれる事しか出来なかった。
 そして、そんな直哉を、無残にも傷つけるような事をしてしまった。

 政司を責める事は出来ない。
 俺自身、政司とのセックスを望んでしまったのだから。
 俺と政司、世界でたった二人だけ、同じDNAの塩基配列を持った、一卵性の双生児。
 他の、誰にも代わりはない、それはわかっている。
 双子として、いや、それ以上に。
 けれど、本当にそれでいいのだろうか。

「政司……ごめん……」
「法規? 何で? 何を謝るの?」
「俺は、政司の事が好きだ。そう言う意味で。でも、俺は……このまま、政司と、関係を続ける事は出来ない。」
「どうして? 血の繋がった兄弟だから? 俺も、法規の事がずっと、ずっと好きだ。それなのに、何故?」
「兄弟……。確かに、だから、ずっと、その関係を壊すのが怖くて、打ち明けられなかった。」

「でも、今は、もう違うだろ? お互いの想いが、通じてるってわかってる。それで、十分だろ? 別に、誰に言う必要もない。俺達が、わかっていれば。」
「思いを打ち明けられなかったのは辛かった。でも、通じてもやっぱり、今でも辛い。俺達の中で、世界が閉じてしまうようで。」
「そんな事はないだろ? 実際に閉じてしまう事なんてない。そりゃあ、確かに、誰にも言えないさ。けど、ただ、手に入らない物を欲しがっているだけのもう子供じゃない。親元にはいるけど、お互い、きちんとした社会人じゃないか。」

「それはわかってる。でも、それでも、やっぱり、政司とこの関係を続ける事は出来ない。俺の我侭かもしれない。けど、知った上で、もう一度、今度は、本当に、きちんと双子の兄弟として、関係を作っていきたい。」
「わかった上で、また、ただの兄弟へ戻れと? 一度、受け入れたのに、どうして拒むんだ?」
「受け入れた事実を、否定は出来ない。だから、勝手な事も承知で言っている。今までの……元のただ兄弟に戻る事は出来ない。けれど、やっぱり、兄弟でいたい。」

「……元々、叶う筈がないって思ってた。それが、叶うってわかったって思ったのに……。法規は、拒否するんだな。俺は、法規の事が本当に好きだから、無理強いする事は出来ない。」
「俺から持ち掛けた話題なのに……ごめん。でも、政司を拒否するのとは違う。政司は……やっぱり、大切な掛替えのない双子の兄弟だ。」

「……一つ聞いていいか?」
「何?」
「法規がそう考えるのは、法規に恋人がいるからか? そいつの所へ、戻るのか?」
「そんな事……出来る訳ない。政司とセックスしておきながら、戻るなんて、そんな都合のいい事……」

 そう、そこまで身勝手な事、直哉に望む事なんて出来ない。
 一時とは言え、直哉の存在を忘れ、政司とのセックスに及んでしまったのだから。
 政司との事を、隠して、そのまま付き合い続けるなんて、そんな虫のいい話が通る筈がない。

 あの時、直哉は、『報いだ』と言った。
 俺が、政司の事を想い続けながら、それでも、誰かと付き合い続けてきた俺への『報い』なのだろうか。
 そして、それに、直哉まで巻き込んでしまった。

 それでも、ただ、一方的に電話だけで、直哉に別れを告げる事も出来なくて、いつものように、週末に、直哉の家へ出向いて行った。
 インターホンを鳴らすと、いつもと変わらぬように、直哉が「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれた。
 それが、心苦しかった。

 直哉の方も、俺の様子が、いつもと異なる事に気付いたのだろう。

「法規? どうしたの? 何かあったの?」
「……直哉さん、ごめんなさい。俺、俺……」

「法規、取り合えず、落ち着いて。焦らないで、ゆっくり話してくれたら良いから。」

 こんなにも、俺の事、心配して、優しく接してくれるのに。
 やっぱり、直哉に、辛い過去があったから?
 そして、俺は、それを更に抉ろうとしているのだろうか。

 手渡された、暖かい湯飲みを受け取って、口にする。
 熱過ぎもなく、ぬる過ぎもなく、調度良い温度だ。
 不意に、涙が出そうになる。
 けれど、俺が、泣いていい筈がない。
 だって、一番悪いのは、俺なんだから。

「弟くん、政司くんだっけ? 話したの?」

「うん……。」

「ゲイだって言って、受け入れてもらえなかった?」

「ううん。違う。そうじゃない。政司もゲイなんだって。それで……。」

「それで、どうしたの?」

「……政司も、ずっと、俺の事が好きだったって言われて、政司と寝た。政司に押し倒されて、俺は拒めなかった。それで、俺も、政司の事、抱いた。」

「……お互い知らなかったけど、両想いだった、って事か。それで、政司くんと、付き合っていくの?」

「それは……出来ない。しちゃいけないと思ったし、元のままとはいかないけど、兄弟でいたいと思った。これは、政司にも言った。」

「そう……それで、法規はどうしたいの? これから、どうするつもりなの?」

「わからない。でも、直哉さんには、酷い事したのわかってるし、直哉さんとこのまま、付き合っていくことも出来ない。直哉さんの事裏切って、政司とセックスして、こうやって、告げている事も、酷い事だと思ってる。直哉さんに許してもらえる訳ないって。許してもらっちゃいけないんだって。」

「結局、俺が、法規に、政司くんに、打ち明けた方がいい、と言った事が、逆に、法規を追い詰める結果になってしまったんだな。」

「追い詰めるだなんて、そんな。直哉さんが、悪い訳じゃない。俺が、もっと早く、ちゃんとしていれば、こんな事には……。」

「それが出来なかったのは仕方がないだろ? 法規だって、全部知ってた訳じゃないんだから。」

「それでも、一番知ってたのは、俺だから。直哉さんに、別れを切り出されても仕方がないと思ってた。それでも、直哉さんが優しくしてくれたのをいい事に、俺は、直哉さんに甘えて……こんなカタチで、別れる事になるなんて、本当にごめんなさい。謝って済む問題じゃないけど、俺には、謝る事しか出来ない……。」

「法規……」

 何て、自分勝手で、無力な俺。
 政司にも、直哉にも、何も出来ない。
 償いさえ、何も。
 だって、どうやったって、償える事じゃないから。
 兄弟でいてくれる、政司には、まだ少しはいい。
 けれど、本当に直哉には何も。
 そう、本当に、何も、出来ない。



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『幹分かつ枝-7-』

 いつも迎える朝、そして、俺も合わせて家族5人ともそれぞれ仕事へ赴いて行く。
 昼間は、それぞれがそれぞれの仕事をこなしていて夜になれば、毎日とは限らないが、それぞれがこの家に帰ってくる。
 表立って不穏な事は、殆ど見えない。

 父も、母も、法規も、千香も、そして俺も。
 他人の家とそれ程比べてみた事はないが、かなり円満な家族像だと思う。
 そこに血の繋がりがなくても、あっても。
 そうやって、何年もこの家で過ごしてきた。
 大きな不満がある訳でもない。
 それぞれ、ほぼ全てに対して。

 千香は、自分の母親を長く見て育ってきており、そして、そんな母親が、俺達の父親と再婚をした。
 恋人を選ぶ時でも、相手の男を見る目は結構厳しいと思う。
 それは、千香の要求が多過ぎるのではなくて、母と父の関係を見てきているから、自分の事を、女性として見られることよりも、一人の人間としてみてくれる相手を求めている。
 そして、女性にしか出来ない事、男性にしか出来ない事、また、女性には出来ない事、男性には出来ない事、それもわかっている。

 もし、そういう男性と出会えた時、いずれは結婚していくのだろう。
 それが、今、千香が付き合っている彼氏かどうかはわからないが。
 千香が、その時、相手の姓になるのか、それとも、自分の姓にいれるのか、それもどうなるかはわからないが。
 どちらにしても、千香が妹である事に変わりないだろう。
 そして、千香の選んだ相手と義理の弟になる事も。

 法規もまた、結婚していくのだろうか。
 そうなった時、俺は、法規への想いを打ち切る事が出来るだろうか。
 法規の相手の女性を、義理の家族として受け入れる事が出来るだろうか。
 そして、俺は、どうすべきなのだろうか。
 まだ、決定的な瞬間を迎えていないからわからない。
 その決定的な瞬間が訪れるまで、俺は、このままなのか。
 それがいつやって来るかもわからないのに、俺は、それを待っているだけなのだろうか。

 それぞれ、お互いが、仕事で忙しい中、久々に、皆、少し遅くなるだろうけれど、一緒に夕食を囲めそうだ、と言う事で、俺も、遊びには出かけず、家で食事を摂る。
 出てきた料理の中で、千香が、苦手な食べ物を、俺と法規の皿に乗せてくる。

「千香、お前、そういうところは、本当に子供みたいだな。」
「仕方ないじゃない。食べられないものは食べられないんだから。自分で作る時は、絶対に、自分の食べられないものは料理に入れないし。」
「政司だって、苦手なものくらいあるだろ?」
「それは、勿論。でも、俺は、母さんが作ってくれた物は、全部食べるぞ。法規だってそうじゃないか。」
「まあ、それはそうだが、どうしても食べられないものは、仕方ないだろ?」

 好きなものは好き、苦手なものは苦手、何でも美味しく食べられる、それは理想かもしれないが、仕方のない事はわかっている。
 それは、食べ物に限った事じゃない事も。
 人間関係でも同じ。
 やはり、相性の悪い人間はいる。
 それでも、一緒に仕事をしなければならない時は、必要最低限に抑えて、お互い気不味くなりすぎないようにする。
 そして、相性のいい人間とでも、どこまでも気が許せるわけじゃない事も。

 夕食を終えて、暫らく一家団欒をした後、それぞれの部屋へ入って行く。
 あまり、これといって順番は決まっていないのだが、風呂に呼ばれて、手が空いていたので、入りに行く。
 風呂から上がって、自分の机に向かっていると、部屋の扉が、ノックされた。
 入ってくるように促すと、そこに姿を現したのは、同じく風呂から上がったらしい、パジャマ姿の法規だった。
 別に、その姿を見慣れていないわけではない。

「何? 法規、どうしたの?」
「ああ……政司、少し、話したいんだけど、構わない?」
「別に、構わないよ。長くなりそうなら、立ったまんまじゃ何だから。そこら辺……って言っても、ベッドしか空いてないけど、腰掛けて。」
「ありがとう。そうさせてもらうよ。」

「で? 何? 話って?」
「俺、ずっと、政司に話さないでいた事がある。政司が、その事をどう感じているのかわからないけど、一応、言っておこうと思って。」
「話さないでいた事?」
「政司は、俺が、気付いている事を知らないだろうから。ああ……でも、それを知ってるのは、俺だけだと思う。父さんも母さんも、千香も知らない。……昔、いつだったか覚えてないが、政司が、家にオトコを連れ込んでいた事があった事を。」

「な……。法規は、じゃあ、知ってたの、その時からずっと。」
「まあ。でも政司が、ゲイなのか、バイなのか、そこまではわからない。政司は、夜遅くなることがあるだろ? 仕事以外で。だから、どっちかわからないけど、そう言う相手が、いるんじゃないかって言うのも、何となくわかってた。それがどっちでも、俺は、そう言う偏見を持たずに見ることが出来る。……俺自身が、ゲイだから。」

 法規が……?
 そして、法規は勘違いしている。
 俺に、相手がいるって言っても、それは、特定の相手ではなくって、ただ、……。

「法規、俺は、バイじゃない。そして、別に、恋人もいない。俺が、俺が、好きなのは、法規だから……。」
「え……?」

 一旦、話し出してしまったら、止める事は出来なくなっていた。
 今まで、何も話さなかった分、こぼれ出るかのように。

「誰かを、法規の代わりにしていたわけじゃない。だけど、誰とセックスをしても、法規が欲しかった。誰かに抱かれれば、もし、法規が相手だったらどうだろう、って法規に抱かれたくなったし、誰かを抱いても、法規が相手だったら、って法規を抱きたかった。」
「政司……。」
「法規は、それでも受け入れられる? 俺が、ゲイで、しかも、兄弟である、法規の事が好きなんだ。セックスの対象としてだよ。それが、叶う事はない、叶えられる筈もない、わかっていても、そういう欲望や想いは止められない。」

「叶う筈もない……俺も、ずっとそう思ってきた。政司に対して、兄弟以上の感情を抱いてきたから。それでも、ずっと、吹っ切らなければいけないと思っていた。」

 法規も、そう思っていた?
 ずっと?
 俺が、セックスの対象として、法規の事を考えていたように、法規もまた、俺の事を。
 叶わない事。
 叶えられない事。
 でも、そうじゃないのか?

 そして、そう思ったら、俺は、自分の衝動を止める事は出来なかった。
 ベッドに腰掛けている、法規を押し倒していた。

「政司……?」
「法規が、欲しい。」

 法規は、逡巡しているようだったけれど、俺は、そのまま、法規に口付けた。
 拒んでは来ない。
 だから、俺は、そのまま、法規の口腔内に舌を差し入れて、その舌を絡め取った。
 舌で、法規の口腔内を味わい、絡めた舌を吸い上げる。

「……ふ……ん……」

 パジャマのボタンを外していって、その肌に指を這わせる。
 そして、露になった胸の乳首を摘み上げて刺激する。
 そうしながら、口付ける位置を唇から、首筋へ、そして、徐々に下へと移していく。

「ん……ぁ……政司……」

 赤く充血し、勃ち上がった乳首を、更に、指で弄る。
 反対側の胸へ、口付けを落とし、その乳首を吸い上げて、甘噛みする。

「……あ……ぁ……んん……」

 下肢に手を伸ばすと、法規のペニスも、勃起しかけているのがわかる。
 その事実に、更に興奮して、俺のペニスも硬くなっていく。
 ローションを手に取ると、法規のアナルに指を挿入していった。

「…ふ……ぁ……政司……」

 アナルを解しながら、法規のペニスを口に含んでいく。
 唇で、舌で、口淫を施し、硬度を増してくる、法規のペニス。
 それは、オトコが欲望を隠せない、忠実な証。
 それが、俺にって今、法規に。

「法規、イれて、いい?」
「………ああ。」

 指を抜いて、ペニスにゴムを被せ、ローションの滑りを借りて、挿入していく。
 深く飲み込ませてから、抽挿を開始する。

「んん……ぁ……は……あぁ…」

 法規が感じる場所を突き上げながら、法規のアナルの締め付けを感じる。
 律動を速めていくと、法規もより感じているようだ。

「はぁ……あ…っ!……ぁ……っ……!」
「法規……イイ……?」
「ん……あ……政司…っ…イきそ……」

 俺も、もう、限界が近いのは同じで、硬くそそり勃った法規のペニスを扱いて、射精へと向かう。

「…ぁ…んん…く…ぅ…あ…っ!」
「法規……っ…!」

 そうして、絶頂を迎えた。
 今、望んで、与えられるならば、それが欲しい。

 叶えられる筈のなかった想い。
 叶えられる筈もなかった行為。
 それが、ここにある。

「法規も、俺の事、欲しかった? 抱いて……」

 俺の感じる所を、始めから知っているかのように、愛撫してくる。

「法規……法規……ぁ……」

 再び、昂ぶってくる、お互いのカラダ。
 その、法規のペニスを受け入れて、突き上げられて、感じて、更に昂ぶっていく。

 性格こそ異なれど、全く同じDNA。
 それが、交じり合い、溶け合っていく。
 そして、若干は異なれど、ほぼ同じ、その容姿。
 多分、俺と法規が抱き合う姿は、恐らく、まるで合わせ鏡のようなものだろう。

 感じる場所は、どこまで同じなんだろう。
 そこに通う神経は、どこまで。
 侵されるはずのなかった禁忌が、今、ここで侵されている。
 そこに何か実がなることがあるだろうか。
 食べてはいけないといわれた、エデンの園のリンゴのように。

 男同士だから、物体として実を結ぶ事は決してないのだけれども。

「…ぁ…っ…!…ぁあ…!っ…!法規…!イく…っ!」
「く……ん…ぁ…政司……っ…!」

 迎えた絶頂の先に何が見えるのか?
 そのリンゴを食べてしまった、俺と法規は?
 同じ種の元、生まれた育ったその幹の行き先は。

 それから、法規の口から告げられた言葉。


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『幹分かつ枝-6-』

 明け方になって、まだちょっと外が薄暗い内に目が覚めた。
 寝るのはぐっすり眠れたから、睡眠不足という感じはしない。
 実際に睡眠時間も、そんなに短くはないだろう。
 それでも、完全に起き出して、行動をするのにはまだ少し早いかも知れない。
 隣では、直哉がまだ眠っている。
 起こさないように、布団から抜け出て、カーテンを少し開けて外を眺めた。
 本当に良い景色だと思う。

 少しの間、眺めてから、洗面所へ行って、顔を洗う。
 そして、また部屋に戻ったら、直哉が目を覚ましていた。

「おはよう。早いね。法規。」
「うん、何となく目覚めちゃって。おはよう。直哉さん。」
 直哉も、電気をつけないまま、窓辺に行って、外を眺める。

「何か、良い具合に薄暗いね。折角早く起きたんだし、より静かな自然の中を散歩しに行ってみようか。」
「旅館の庭? それとも、少し外を歩いてみる?」
「そうだね。庭も結構、手入れが行き届いてるから、見応えがあると思うし、外は外でまた、それ以外のものが楽しめるだろうね。」
「外に出るんなら、着替えなきゃいけないね。」
「うん。そうだね。俺も、顔を洗ってきて、それから着替えるよ。法規、先に着替えてて。」
「わかった。」

 それから、直哉は洗面所へ向かい、俺は、着替え始めた。
 直哉も、戻ってきて、着替え終わったので、旅館の庭を探索した。
 空を見上げると、ほんのうっすらと、月が残っており、これから、徐々に白んでいくんだろう。
 こういう微妙な色合いを、写真ではなく、直哉の絵で見てみたいと思う。
 それを直哉に伝えたら、「そうだね、こう言った空って、あんまり見ることがないからね。面白そうだね」そう言ってくれた。

 一通り、それなりにゆっくりと、庭を見渡して、外に出ると、自然の木々に囲まれている。
 地面には、雑草と、誰が植えたのか、それとも鳥が運んで来たのか、小さなうす紫色の花が咲いていた。
 直哉が屈んで、その花を見ている。
「直哉さん、それ、知ってる花?」
「あんまり詳しいわけじゃないから、今、名前を思いつかないな。もし、この花を描いても、名前とかは全然別のもの付けると思うし。」
「調べようとは思わないの? 花の図鑑とか確か持ってたでしょ。」
「必要な時は調べるけど、それ以外は、あんまり名前とか気にしないな。」
「ふーん、そうなんだ。」

 暫らく、木々の間、そこに咲く花、そして、そこの澄んだ空気を味わって、明るさが増してきた頃、旅館の部屋へと戻った。
 朝食まで、少し時間があったので、折角だから、温泉に入ろうか、と入りに行った。
 まだ朝が早い所為か、貸切の方ではないのに、他の客はいなくて、2人で、ゆったりと湯船に浸っていた。
 朝食は、夕食ほど、豪華でないものの、やはり、しっかりしていて美味しかった。

「法規は、何か、俺に少し話す気になった?」
「え?」
「ほら、昨夜、言っただろ?」
「ああ、うん……。」

「法規がさ、もし、自分の事を一方的に話すのが嫌なら、もし良ければ、俺も、俺の事話すし。勿論、どっちも、強制しないけど。」

 話したいのは、話したい。
 それは、ただ、楽になりたいからなのだろうか。
 そして、やっぱり、直哉の事も知りたい。
 もしかしたら、俺が話す内容の中にも、直哉が話す内容の中にも、マイナスの面は含んでいるかもしれない。
 少なくとも、俺の話す内容は、多分にマイナスの面を含んでいるだろう。
 直哉もそうなのだろうか。

 俺が、直哉と付き合ってきて、マイナスの面って感じた事がなかった。
 でも、直哉が、俺のマイナスの面を知ろうとしてくれていれるのなら、俺も、直哉のそういうところも知りたいと思う。

「直哉さん、あのさ、俺、昨日、妹がいて、直哉さんの絵が好きだって話したでしょ?」
「ああ、うん。」
「その妹とはさ、血が繋がってないんだけどさ、俺、もう一人、兄弟がいるんだ。双子の弟が。それで、その弟、政司っていうんだけど、俺、政司に対して、兄弟以上の感情を持ってるんだ。」
「血の繋がった、しかも双子、か。家も、一緒に住んでるんだろ? 近くにいるはずなのに、それが返って辛いのかな。」
「うん。兄弟としては、申し分ない位に、仲がいいし、この想いが叶う事はない、ってわかっていても、忘れられなくて。」

「告げる事は出来ない、兄弟としての絆も失ってしまうかもしれないから。元々、ノンケを好きになって、叶う事はほぼない、その上、血の繋がった相手……普通はまあ、打ち明けられないよな。だから、ずっと、法規は苦しかったんだろうな。」
「ごめんなさい。直哉さん。こんな話して。」
「いや、構わないよ。聞き出そうとしたのは、俺なんだし。」

「後、政司は、政司は俺が知ってる事を知らないと思うけど、完全なノンケじゃない。恋人がいるのかどうか知らないけど。」
「完全なノンケじゃない?」
「うん。ゲイなのか、バイなのかわからないし、いつだったか詳細には思い出せないけど、政司が、自分の部屋にオトコ連れ込んで、セックスしてたのたまたま知ったから。今は……多分、仕事以外で、かなり夜遅くに帰って来る事があるから、相手が、オトコかオンナかわからないけど、一応、そういう相手がいるんじゃないかと思ってる。」

「そっか。手に入らないから、余計に忘れる事は出来ない、っていうのは、何となくわかるよ。近くにいれば尚更ね。法規は、ゲイだって事もカミングアウトしてないの?」
「うん……。」
「ノンケ相手のカミングアウトって、色々難しいと思うけど、法規がそいつを好きだって事を伝えるのは別として、少なくともゲイだって事は、話せるんじゃない? 完全なノンケじゃないんだから、そういう、セクシュアリティって受け入れられると思うけど。相手にとっても、法規がカミングアウトする事で、法規に対して、そういったセクシュアリティって打ち明けやすいだろうし。法規は、ゲイに対しても、バイに対しても、偏見とか持たないだろ? 相手が、法規の事知らなくて、法規が知っているんなら、尚更、そういう契機(きっかけ)って、法規の方から打ち明けた方がいいと思うけど。」

「そう……だね。ゲイだって事だけなら、打ち明けられるかもしれない。」
「まあ、それで、法規の想いが完全に晴れるかどうかはわからないけど、少しは軽くなるんじゃないか? 多分、相手にとっても、そうだと思う。」
「俺……だけじゃない? 政司にとっても?」
「ゲイでも、バイでも、法規の他の家族がどうかは知らないが、法規は認めてやれるだろ? そういう相手って、欲しいんじゃないかな。」

「そうしたら、また少し兄弟として、近づけるのかな。」
「多分。そうする事で、法規の想いがどう変化していくかはわからないけど。」
「いい加減、本当に、吹っ切らなきゃね。ずっと思ってるんだけど。直哉さんにも失礼なのはわかってるし。」
「まあ、完全に吹っ切るには、どうしたらいいかは、わからないけどね。」

「直哉さんは、こういう話聞いても、まだ、俺と付き合っていけると思ってるの?」
「そういう話どうこうを別にして、ずっと法規と付き合い続けられるかどうかはわからない。俺の中にも、法規の中にも、どこにも保証なんてないからね。でも、今、付き合っていけてるのは、法規が複雑な想いを抱いているにせよ、きちんと、俺と向き合って、付き合おうとしてくれているのがわかるから。……ここからは、俺の話になるけど、構わないか?」

「え、あ、うん。」
「俺は、かなり長い間、誰かとまともに向き合って付き合おうと思った事はなかった。元々、俺は、ゲイじゃないし、バイっていうのとも違う。ただ単に、相手が、オトコでもオンナでも、ちゃんと真剣に相手の事を見て、付き合って来なかった。」
「え、そうなの? 直哉さんは、ちゃんと、俺の事考えて、付き合ってくれてると思ってたけど。」
「今は、そうだ。でも、昔は違う。」

「昔……。」
「誰かしらと、適当に付き合ってて、まあ、始めはオンナばっかりだったけど。オトコの先輩に誘われて、別にいいか、そんな程度で、付き合ってた。始めの内は。でも、その先輩の事が、本当に好きだ、って気付いた時はもう遅かった。それまで、適当にしか、付き合って来なかった俺への報いだな。」

「遅かったって、なんで?」
「……先輩の相手は、俺だけじゃなかった。他にも、色々、オトコがいた。そんな状況で、今更、本気で好きなんて言えなかったし、多分、言っても、駄目だったと思う。それでも、好きだと気付いてしまったら、もうどうする事も出来なかった。先輩と、どれだけセックスをしても、想いが叶う事はないんだって。それから、半ば自棄で、半ば先輩への当て付けのように、色んなオトコとセックスするようになった。そんな俺に、先輩は何も言わなかったし、先輩とのセックスがなくなる訳でもなかった。そういうまあ、『遊び人』な先輩に本気で好きな人が出来て、その人と付き合い始めて、絶対的に、俺の入り込む隙間なんてなくて。本当に、あの頃は酷かったと思うよ。酒に、タバコに、オトコ、色んな物に手を出して溺れてた。そんな事をしても、先輩の想いが手に入る訳けないのにな。」

「今の直哉さんからは、そういうのって想像できない。でも、それだけ好きだった、先輩の事、整理できたんですか。」
「現実のところどうかわからないけど、俺1人では無理だったと思う。そうやって、男漁りしてる時に、ある男性に声を掛けられて、別に、始めは付き合うつもりなんてなかったけど、関係を続けるようになった。これも、本当に失礼な話だけど、その人との関係を始めても、最初の内は、他のオトコともセックスしてたし。それでも、その人とセックスをして、話も色々するようになって、その人が、俺のそういう感情を受け入れてくれたから、それで、俺が、整理しやすいように手を貸してくれたから、少しずつ、現実を見れるようになった。まあ、ちょっと、色んな事があったけど。先輩とも、普通に仲のいい友人になる事が出来たし、先輩の恋人とも、友人になれた。そして、まあ、その人の禁煙だったのもあるし、別に吸う必要もなくなったから、タバコは何となく辞めた。お酒も、今は、ちゃんと味わって飲んでる。」

「恋愛感情が、やっと吹っ切れた、って事ですか。その人がいてくれたから。」
「そうだな。軽い感じで、始め誘われたんだけど、きちんと俺の事見続けてくれて、暫らく、今度は、本当にその人と向き合って付き合えるようになった。見守ってくれていた事、そして、何だろう、恋愛感情とは違うんだけど、愛し続けてくれた事。だから、俺も、その人の事が、好きだった。初めて、誰かと、きちんと向き合って付き合う事を知ったから。」

「恩人みたいなもの? どうして、その人と別れたの?」
「どうして……かな。よくわからない。確かに、俺から、別れを切り出した筈なのに。別れに繋がる様な原因も、特には思い付かない。そういう風に付き合う事がなくなっても、全く縁が途切れたわけでもないし。俺に、今、法規がいる事も知ってる。今回の旅館の券も、その人からなんだ。本当は、その人は、別の人に、贈ろうとしてたらしかったんだけど、その相手が急に、連休に行く事が出来なくなってしまったから、他の人にも、声を掛けてたんだと思うけど、俺にも、声を掛けてくれて、『折角だから、たまには、家から離れて、恋人と旅行にでも行っておいで』って。で、ありがたく頂戴した訳。」

「そうだったんだ。その人が、直哉さんが言ってた、前の彼氏なの?」
「ああ。やっぱり不快? そういうのって。前のオトコの話とかされるの。」
「ううーん。わからない。でも、直哉さんが、その人に出会って、付き合って、それで別れてなかったら、今の俺と、こういう風には、付き合えなかった、って事だよね。」
「まあ、そうだけど。昨夜、俺のオリジナル一点物『月の涙』の事、ちょっと話しただろ? あれが、俺の、始めてのオリジナル一点物で、あの人と付き合ってた時に描いたもの。あの人に、『涙』とかあんまり似合わないんだけど、何だろう、『悲しい涙』じゃなくて、優しくて何かを潤してくれるような涙、みたいな感じかな。思い出として、持っておこうと思ったけど、その人に、『嬉しいけど、恋人に失礼だよ』って言われて、公にしてもいいかなって。」

「そうなんだ。そこまで気を配ってくれるなんて。でも、俺、直哉さんが、それだけ大切にしてる思い出なら、公にする前に、見せてもらいたいな。俺の為に。駄目かな?」
「法規が見たいんなら、別に構わないけど。それで、もし、その人と、俺の事が心配だったら、あの人に、法規の事紹介してもいいよ。一応、知ってるけど、ちゃんと『俺の恋人です』って。」
「嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかも。それに、その人は、嫌じゃないのかな?」
「あの人は、寧ろ、喜んで祝福してくれると思うよ。」

 直哉に、そう言う過去があったって知らなかった。
 実らない想いを抱えているのは俺だけじゃない。
 それはわかっているつもりだったけど、直哉もそうだったんだ。
 それで、それを乗り越えて、今の直哉がいるんだし、直哉は実らなかった想いを別のカタチに変える事が出来た。
 俺にも出来るだろうか。
 そして、俺は、政司に俺の想いは告げなくても、ゲイだという事は告げようと思う。
 直哉が言ってくれた、俺と、政司の為に。



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『幹分かつ枝-5-』

 ココロの中の整理とは、中々上手くいかないものだ。
 いい加減、政司への恋愛対象としての想いを断ち切らなければいけない。
 今付き合っている、直哉の事は好きだ。
 直哉は、俺が、叶わぬ想いを抱えて、それでも、現実問題として、それをずっと引きずっている訳にもいかず、直哉と俺の出来る範囲で、ちゃんと向き合っていきたいと思っている俺を、受け入れて、付き合ってくれている。

 直哉の優しさに包まれて、直哉が特にそれを咎める事はないから、それに甘えている訳にもいかない事にも、気付き始めてきていた。
 それでも、政司が、オトコを性欲の対象として見ることの出来る人間だ、という事が、俺のココロを少し揺るがせていた。

 今までは、俺のココロの中に、政司の存在があったから、その事に感づかれて、相手の方から、別れを切り出されてきた。
 けれども、直哉は俺が、他のオトコに想いを抱いているのを承知で、俺が、俺なりに直哉の事を好きだから、そして、俺も、直哉と真面目に付き合っていたいから、関係を続けている。
 政司への想いを、今のところどうする事も出来なくて、そんな俺自身が不甲斐なくて、直哉に対して、多少、申し訳ない気持ちもある。

 もし、俺の片想いの相手が、双子の弟である政司でなかったら、何らかの方法で、断ち切る事が出来たのかもしれない。
 世の中には、仲の良くない、若しくは、縁の薄い兄弟はいるだろうが、兄弟としては、かなりの程度まで気の許せる相手だからこそ、想いを吹っ切る事が出来ない。
 俺が、政司をただの仲の良い、双子の兄弟だ、それだけの目で見ることが出来たらそれにこした事はないのに。

 もう何年、この想いを秘めてきたのだろう。
 誰にも打ち明ける事のできない苦しさ。
 それが、やはり、この想いを俺の中で、より強固にしていったのだろう。
 冗談交じりでも、誰かに打ち明ける事が出来たなら、少しは楽になれただろうか。
 だがそれは、俺の性格上、出来る事ではなかった。

 直哉は企業勤めとかではないから、所謂、日祝祭日などというものは関係なく、仕事をしている。
 俺が、翌日休みで、泊まりに行った時でも、仕事が空けられない時は、夜は一緒に過ごすけれど、その休日を直哉は仕事に当てている。
 仕事がない時は、ごくたまに、一緒に出かけたりもするが、基本的にインドア派な俺と直哉は、それよりも、家の中で、ゴロゴロする事が多い。

 風景画や植物をモチーフにしたものが殆どなのだが、出掛ける事は、滅多になく、資料らしき写真集が何冊も置いてある。
 連休を目の前にしていたが、自分達には、あまり関係がない、そう思っていたところ、思いもかけず、直哉から「今度の連休、もし良かったら、一緒に、温泉に行かないか? 知り合いから、温泉旅館の宿泊券を貰ったんだけど」とお誘いの連絡が来た。

 誘って来たからには、直哉は仕事は大丈夫なのだろう。
 宿の名前を聞いて、調べてみたけれど、都会から離れた、自然の中にある場所だった。
 俺の方の都合は、問題なかったので、OKの返事をして、当日の予定など、約束をした。
 しかし、この連休に、これだけの値段の宿泊券をくれる相手って……不思議だ。
 露天風呂を始めとして、5種類の大浴場と、貸切の露天風呂が3つ。
 いずれも、自然を臨む事が出来るか、自然素材を使ったものだった。


 で、当日、電車で揺られる事数時間、そして、送迎バスに乗って、旅館に着いた。
 本当に、自然に囲まれたところだった。
 しかし、大の大人のオトコが二人きりで、泊まるのは、少々不自然なのではないのだろうか?
 旅館の従業員は、客の事情など聞いてくることはないだろうが。
 直哉は直哉で、「たまには、実際に、こうして、自然に囲まれて見るのもいいね。明日、ちょっと、散歩してみようか。」とその風景を気に入っているようだった。

 因みに、直哉はスケッチブック持参。
 折角、来れたんだから、存分に楽しまなければ、と旅館について、取り敢えず、幾つかの風呂に入った。
 出て来た夕食も、流石に値の張った温泉旅館だけの事はある、地元で採れた、厳選された旬の食材が用いられていた。
 量は決して多くはないのだけれど、不満足にさせない。
 逆に、全て、食べきる事が出来て、嬉しいくらいだ。

 部屋から、外を眺めて暗闇の中の、自然を楽しむ。
 胃袋が、夕食を消化できた頃に、再び、先程入らなかった、風呂に浸かった。
 露天風呂から見える夜空も綺麗だ。
 恋人とこういうところに来られるっていいよなぁ。
 直哉も終始ご機嫌な様子。

 部屋風呂で、再度カラダを綺麗に洗って、畳の上に敷かれた布団の上で抱き合った。
 唇を重ねて、舌を絡ませ合い、吸い上げる。

「…ん……」

 深く口付け合って、一旦、唇を離し、再度、口付けを求める。
 そのまま、直哉の肌に指を這わせて、宿の浴衣を脱がせていく。
 露になった肌に唇を落とし、肌を強く吸い上げる。
 首筋に、胸元に、そして、乳首を摘み上げて、刺激していく。

「…ぁ……法規……」

 刺激され、尖った乳首を更に弄って、快感を高めていく。
 敏感になった、乳首に軽く歯を立てるとより一層、感じているみたいで。

「…ふ……ぁ…ん……」

 まだ、直にペニスに触れず、内股に舌を這わせて、そこを吸い上げる。
 それを徐々に上に移動していって、勃起した直哉のペニスを口に含んだ。
 舌と唇で扱きながら、奥まで飲み込んだり、吸い上げたり。
 その刺激に硬く張り詰める直哉のペニス。

 用意しておいた、ローションを手にとって、指をアナルに挿入していく。
 丹念に解して、受け入れられやすいよう施す。

「…法規……も……いいから……」

 指を抜いて、ペニスをあてがい、挿入していく。
 締め付けのキツさを味わいながら、奥まで埋め込んで、一旦、動きを止める。

 そうして、求められてきた唇を、軽く重ね合って、離した。
 幾分慣れたアナルに抽挿を開始する。
 突き上げて、直哉が感じる部分を擦り上げる度に、直哉の口から声が漏れる。

「あ……あぁ……ん…ぁ……っ…」

 快感を得て、締め付けてくる直哉のアナルの感覚に煽られて、俺は、律動を速めていく。

「ん……法規……イイよ……ぁ…っ…も……イきそう……」

「直哉さん……俺も……もう……」

 直哉の射精を促すようにペニスに触れて、扱いていき、達したその裡で直哉のアナルに締め付けられて、俺もまた、射精していた。
 暫らく、布団の上で休んで、再度、口付けを求めてきた、直哉に応じる。
 そして、そのまま、直哉の愛撫に身を任せていった。

 俺の感じる場所を刺激されて、欲望が再び高まってくる。

「…ぁ…ん……直哉さん……」

 いつもとは、違った場所で求め合っている所為か、時間も、緩やかに流れていくようで、その感覚を長く受け止めている。

 直哉のペニスをアナルに受け入れて、直哉が求めてくる熱を感じる。

「あ……はぁ……っ……あ……んん…」

 突き上げられて、快感が漏れ出るような感覚がたまらなくいい。

「っ…!……あぁ……も……イ…く…っ…!」

「ん……く…っ……ん」

 再び訪れた絶頂の余韻に浸り、布団の上に転がって、軽く唇を重ねた。
 そして、お互い、満足気に微笑んだ。

「法規、少しは元気でた?」
「え?」
「んー、だってさ、法規、1人で色々考えちゃうだろ? 勿論、自分の頭で考える事も大切だけど、俺は、大して何もしてやれないと思うけど、話を聴くだけなら出来るよ?」
「うん。ありがとう……あ、でもその前に、聞きたい事があったんだけど。」

「何?」
「直哉さんのイラストのカレンダーってあるの?」
「え? あ、うん。去年、話があって、出したんだけど、来年の分も、また出すと思う。イラストの方は、仕上がってるし。」
「あ、そうなんだ。いつ頃出そうかわかる?」
「問い合わせてみれば、多分。なんで?」
「実は……千香が…家の妹が、直哉さんの絵、好きみたいで、誕生日プレゼントに頼まれちゃって。」
「へぇ。そうなんだ。何か、嬉しいな。身近にそういう話聞くと。妹さんと仲良いんだね。俺、兄弟いないからわからないや。」
「まあ、うん。仲、良いかな。あ、でも、俺も直哉さんの絵好きだよ。」

「うんうん。わかってる。ありがとう。でも、その妹さんが、法規が俺のオリジナル一点物を持ってるって知ったら、羨ましがるだろうね。」
「あれは……俺の、大切なものだから、大事に仕舞ってとってあるけど。直哉さんの、オリジナル一点物って、他にもあったりするの?」
「一応。1つは、まあ、法規が持ってる『ほうき星』、でもう1つは、法規も観た事があるかもしれないけど、バーに飾ってある『迷宮』。本当は、もう1つ『月の涙』って言うのがあったんだけど、それは、もう、公にしようと思って。」
「へえ、そうなんだ。『迷宮』って、あの『Labyrinth』の?」
「そうそう。そのまんま、名前を日本語にして描いただけの。」
「ちゃんと見たことないや。今度、観てみる。」

「で、法規が、悩んでる事って、何? 片想いのオトコの事とか?」
「えっと、でも、やっぱり、そういう話って、嫌じゃない?」
「別に。どんな相手で、どんな事情があるのか知らないけど。」
「俺の問題だし……、そこまで、直哉さんに甘える訳には……」
「無理に話せとは言わないけどさ、甘えるんじゃなくって、恋人なら、知っておいてあげたい、っていうのもあるんだけど。」

 俺は、直哉に打ち明けてもいいのだろうか?
 恋人の事を知りたい、それはわかる。
 俺も、直哉の事を知りたいし。
 誰かに話したい、それを、直哉に?
 直哉は無理強いはしないと言ったけれど、打ち明ける事は、かなり自分勝手な事になるんじゃないだろうか。
 直哉がどう受け止めるかはわからない。
 それでも、何かの契機(きっかけ)になれば。

「取り敢えず、寝ようか。まだ明日があるんだし。」
「うん。おやすみ。」
「おやすみ。」

 意識が、闇の中に落ちていく。
 まだ明日がある。
 急ぐ必要はない。
 それでも、いつまでも引き伸ばす訳にもいかない。


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